「古い」なんて言わせない。「昭和の肝」の可能性

私たち世代は、実に興味深い時代の転換点に立ち会っています。若い頃は徹底的にアナログな世界で鍛えられ、そこで培った経験や知識を持ちながら、急速なデジタル化の波にも現在進行形で適応中です。確かに、かつての経験の中には、今では通用しなくなってしまったものも少なくありません。でも、それは本当に「古い」だけのものなのでしょうか?たとえば、リアルな対人コミュニケーションで培った瞬時の判断力や、目の前の現実を直感的に捉える力。これらは、デジタル社会においても決して色あせることはありません。むしろ、AIやアルゴリズムが支配する時代だからこそ、人間ならではの「肌感覚」が求められるのでは、と思っています。人の機微を読み取るこの「昭和の肝」が、思わぬところで価値を生む可能性があるのです。

オフライン世代の意外な武器「創造的アナログ思考」

実は今、私たちの「古い」経験が、再度輝き始めているように感じます。特にコロナ禍を経て、人々の価値観は大きく変化しました。オンラインでの効率的なコミュニケーションの重要性が増す一方で、実際に人と向き合い、空気を読み、温度を感じ取るというアナログな技術の価値が再評価されているような気がします。先日、若手メンバーがクライアントとのオンラインMTGで沈黙が続き、焦っている場面に遭遇しました。画面の向こうの相手の様子が読めないと。でも待ってください。たとえ画面越しでも、きちんと相手の目を見て話すことを意識していれば相手が話したそうにモゾモゾしている仕草や、意見を求めているような視線の動きは見えるはずです。結局、人間の本質的な部分は変わっていないのです。オンラインは便利だけれど、リアルな接触が生むエネルギーには代えがたく、そこを実体験として持っているかどうか–誰かの目を見て話すときに生まれる信頼感や、握手の一瞬に感じる相手の誠意–それはいつでも大切な価値でオンライン上でも転用はできるはず。オフライン世代の私たちが培ったこの「触れる力」は、デジタル時代においても貴重な財産です。人間の生活感覚や感性を大事にしてきた私たちの「創造的アナログ思考」が、デジタルと組み合わさることで、新しい価値が生まれる可能性だってあります。

子供たちが学ぶべき「見えないものの捉え方」

私たち世代の強みは、オフラインでの経験を豊富に持っていることです。例えば、商談での相手の表情の読み取り方、集団での意思決定の進め方、チームワークの醸成方法など。これらは、確かにデジタルツールでも代替可能かもしれません。しかし、実際の人間関係の中で培われた感性や判断力は、むしろこれからの時代にこそ必要とされるスキルになるかもしれません。また私たちがかつて覚えたのは、単純なオフライン的スキルだけではありません。風の匂いや土の感触、相手の一瞬の表情から読み取るニュアンスといった、目に見えないものを捉える力も鍛えられてきたのです。これらは、子供たちがこれから向き合う世界で強力な武器になるでしょう。デジタルネイティブ世代の子供たちは、情報の波に埋もれやすい環境にいます。その中で、「情報の背後にある意図」や「数字では表せない感覚」を理解する力を持てるように導くことが、私たちの責務なのではないでしょうか。

古い価値観を押し付けるのではなく、「共創」する

ただし、これらの経験を次世代に伝えるには工夫が必要です。単なる「昔はこうだった」という懐古的な話ではなく、現代の文脈に置き換えて伝えることが重要です。例えば、「face to face」でのコミュニケーションの大切さを説明する際も、オンラインミーティングでの効果的な使い方として言い換えることで、より理解しやすくなります。昭和的な価値観をただ押し付けるのは簡単ですが、それでは子供たちにとって重荷になるだけです。むしろ、私たち自身が彼らの新しい発想に耳を傾け、共に新しい視点を生み出す「共創」の姿勢が大切です。たとえば、子供たちがゲームやSNSを楽しむ中で学んでいる「バーチャル空間でのコミュニケーション」を私たちが理解し、それをリアルな場面にどう活かすかを一緒に考える。そうすることで、オフラインとオンラインの境界を超えた新しい価値観が生まれるのです。

時代の架け橋の通訳者として

実は、私たちの世代は貴重な「通訳者」になれる可能性を秘めています。アナログとデジタル、オフラインとオンライン、両方の世界を知る者として、それぞれの良さを理解し、融合させることができるのです。特に、デジタルネイティブである子どもたちが、私たちの経験から学び、それを自分たちの文脈で解釈し直すことで、全く新しい価値が生まれる可能性があります。もう一つ、私たちオフライン世代が子供たちに伝えたいのは「時間をかける贅沢」です。たとえば、何かを一から手作りする楽しさや、結果が出るまでじっくり待つ心の余裕。それは、すぐに結果が求められるデジタル社会において、失われつつある美徳です。この「贅沢な時間感覚」を共有することで、彼らはより深い創造力や忍耐力を身につけることができるでしょう。それが、未来を切り拓く原動力になるのです。

未来を創る「二刀流」の可能性

私たちの経験は決して古びていません。むしろ、それは未来を創るための貴重な素材となり得るのです。大切なのは、その経験を現代に合わせて更新し続けること。そして、次世代がそれを基に、さらに新しい何かを生み出せるよう、うまく橋渡しをしていくことではないでしょうか。大切なのは、経験を「錆びさせない」こと。若い世代と関わる中で、自分の経験を現代版にアップデートし続ける。そうすることで、経験は古びるどころか、むしろ輝きを増していくものです。私たちの世代は、デジタルとアナログの「通訳者」であると同時に、「価値の発掘者」でもあるのかもしれません。私たちの世代だからこそできる、この重要な役割。それは、単なる経験の伝承ではなく、未来を創造するための種まきなのかもしれません。そう考えると、日々の仕事や子育ての中での私たちの役割が、より明確に見えてくるように思います。デジタルツールを使いこなしながら、人間味のある関係性を築く。私たちの経験が、そんな「二刀流」の次世代を育てる肥やしになれば、これ以上の喜びはありません。

ではまた会いましょう。